熱帯材と日本

熱帯材と日本

日本の熱帯材輸入

 日本は、1960~70年代にはフィリピン、次にインドネシア、1970~1990年代にはマレーシアのサバ州、続いてサラワク州から大量の熱帯材丸太を輸入し、これらの国・地域の熱帯材の枯渇を招いてきました。

 現在では、伐採された木材の一部は丸太で輸出されますが、サラワクで合板、製材、MDF(中密度繊維板)等の木材製品に加工されるものが増えています。かなりの割合の木材は合板に加工され多様な用途別に等級化されます。また多くの木材がチップ状に切り刻まれMDFに加工されます。

 日本合板工業組合連合会によると、日本が毎年型枠工事に使う合板(コンパネ)の量は約70万立方メートルと推定され、その約90%がマレーシア、インドネシアを中心とする東南アジアからの輸入です。マレーシアから輸入される合板の半分以上がコンクリート型枠用であり、床材用もかなりの部分を占めていると見られています。

 現在は丸太ではなく合板に加工されて入ってくるものが増えていますが、日本の輸入はサラワク州の木材取引金額の42%を占めており、金額では日本は今もサラワク産木材の最大の顧客です。

サラワク材の主要な輸出先(2017年)

金額または数量 第1位 第2位 第3位
取引⾦額(RM’000)
6,130,569
日本(42%)
インド(14%)
韓国(9%)
丸太m3
2,238,278
インドネシア(50%)
インド(38%)
台湾(4%)
製材m3
510,282
フィリピン(32%)
中東(27%)
タイ(13%)
合板m3
1,737,029
日本(64%)
韓国(12%)
中東(9%)
繊維板m3
173,488
日本(79%)
フィリピン(6%)
インドネシア(4%)

出所:サラワク木材及び木材製品輸出統計2017(Sarawak Timber Industry Development Corporation: STIDCによる)より作成

コラム:合板

合板の原材料については、最近は、国産材を使用した合板も増えており、2016年には国内生産(国産材)38%、国内生産(輸入材)10%、輸入合板が52%であった。輸入合板はマレーシア、インドネシア、中国からが多く、この3か国で約9割を占めている。

合板の木材需給の構成(2016年)

木材供給量(万m3) %
国内生産(国産材)
388
37.8
国内生産(輸入材)
100
9.7
輸入
538
52.5
(うちマレーシア
178
17.4
(うちインドネシア
156
15.2
(うち中国
143
14.2
(うちその他
60
5.9
合計
1025
100

出典:平成29年度(2017年度) 森林・林業白書から作成

出所:平成29年度 森林・林業白書

出所:平成29年度 森林・林業白書

コラム:コンパネ

 コンクリート型枠合板の略称。生コンクリートを流し込み、所定の形に成形するための型枠として使用する合板で、表面に塗装がされているものもある。一般的な転用回数は、熱帯材は5~7回(最近は合板の質低下により転用回数も落ちている)、針葉樹は3~4回。現場の土地の形状が様々であることなどから、コンクリート成形のためにコンパネを切っていくので、一般に使用済みコンパネを別の現場で使うのは困難とされている。使用後の合板はほとんどが焼却処理される。チップとしてバイオマス発電に使われたり、パーティクルボードの材料とされたりする場合もあるが、採算があう場合に限られ量的には少ない。

木材輸入に係る法制度

 米国、EU及びオーストラリアでは、違法木材製品の輸入を禁止し、サプライチェーンに関して「デュー・ディリジェンス」(その行為者がその行為に先だって払うべき正当な注意義務及び努力。「適切な注意義務・努力」等と訳される)を行って違法木材の調達を避けることを買い手に義務付ける包括的な法律を整備しています。日本では関連する主な法律は以下の2つですが、欧米等とは対照的にデュー・ディリジェンスの義務付けがなくしたがって違法伐採された木材の輸入や使用しても罰則はなく、非常に緩いものとなっています。

〇国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)2006年施行

 

合板の原材料については、最近は、国産材を使用した合板も増えており、2016年には国内生産(国産材)38%、国内生産(輸入材)10%、輸入合板が52%であった。輸入合板はマレーシア、インドネシア、中国からが多く、この3か国で約9割を占めている。

しかし2つの大きな問題があります。1つめは、法律の対象は中央政府の調達分のみであり、民間はもちろん地方自治体にとっても遵守は義務ではありません。中央政府の調達分とは輸入木材の僅か5%程度です。

2つめの問題は合法性を保証できないことです。グリーン購入法実施のためのガイドラインに基づく「合法木材制度」と呼ばれる合法性の確認システムには重大な欠陥があります。サラワクの場合、木材の輸出手続きを監督している サラワクの政府機関であるサラワク木材産業開発公社 (STIDC)が発行する輸出証明書が合法性を証明する書類として許容されているからです。

サラワク州政府発行の合法性証明では、違法木材の輸入を排除できない理由としては、まず不正な証明書等の発行が考えられることです。企業から議員や地元有力者、政府高官等への賄賂が報告されており、汚職や癒着により不正に伐採権が発行されたり、行われるべき伐採・操業のモニタリングが不十分であったりする可能性は十分にあります。

伐採をめぐり先住民族の慣習権が侵害されている例は枚挙にいとまがなく、土地の利用権を争う訴訟が300件以上起こっており、先住民族が慣習地の権利を主張している森から採取される木材も合法とされている可能性が高いと考えられます。

 

合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(通称「クリーンウッド法」2017年施行

 

ここでは木材関連事業者が行う事業が、次の2つに区分され、事業者は該当する事業に登録することになっています。前者は木材自体に関する各種情報に加え原産国における合法性証明を確認し、後者は第一種木材関連事業が取得した合法性証明を確認することとされています。

  • 第一種木材関連事業(国内で最初に木材等の譲り受け等を行う事業者。樹木の所有者から丸太を譲り受け加工、輸出又は販売をする事業や、木材の輸入をする事業など)
  • 第二種木材関連事業(第一種木材関連事業から譲り受けた木材等の加工、輸出又は販売をする事業、木材を使って建築物その他の工作物の建築又は建設をする事業など)

クリーンウッド法は、民間企業も対象にしたという点ではグリーン購入法よりも一歩前進といえます。しかし、まず企業が事業者として登録するか否かは任意です。登録したとしても合法木材を使うのは努力義務であり、違反しても罰則はありません。産出国等における合法性証明の取得確認が求められていますが、前述のようにそれらの書類が不正であるリスクははらんだままであるといえます。このようなことからこの法律に十分な効力があるかは疑問視されています。

木材認証制度

 森林認証制度は、第三者機関が環境・経済・社会の3つの側面から一定の基準をもとに適切な森林経営が行われている森林または経営組織などを認証し、その森林から生産され木材・木材製品にラベルを付けて流通させるしくみです。消費者が、持続可能性に配慮した木材を選択し購買することを通じて、持続可能な森林経営を支援する民間主体の取り組みです。

世界的な取組みは、以下の2つです。

  • 森林管理協議会(FSC):世界共通の原則・基準に基づいた国際的な森林認証制度
  • PEFC森林認証プログラム(PEFC):世界49ヶ国の認証制度が参加するアンブレラ型の相互認証プログラム

マレーシアには、マレーシア木材認証制度(Malaysian Timber Certification System:MTCS)という認証制度があります。

マレーシア木材認証協議会(MTCC)は、1999年1月にマレーシア木材認証制度(MTCS)を開発し運営する独立した組織として運営を開始しました。MTCSは森林管理の実践への独立した評価と木材製品製造業者または輸出業者の監査を提供し、製造または輸出された木材製品が持続可能な方法で管理された森林から調達されていることを確認している、とされています。MTCSは、世界最大の森林認証プログラムであるPEFCスキームによって承認されPEFCとの相互認証が認められています。 現在のサラワクにおける認証林は以下の6つで合計約56万ヘクタールです。

森林管理の単位 面積(ha)
RAVENSCOURT SDN BHD – RAVENSCOURT FMU
117,941
TANJONG MANIS HOLDINGS SDN BHD – KAPIT FMU
149,756
ZEDTEE SDN BHD – ANAP MUPUT FMU
83,535
SHIN YANG TRADING SDN BHD – LINAU FMU
72,685
SAMLING TIMBER SDN BHD – ULU TRUSAN FMU
92,751
AYA TIASA HOLDINGS BHD – BAHAU KAHEI FMU
45,035
合計
561,703

MTCCの天然林のための基準と指標(Malaysian Criteria and Indicators for Forest Management Certification (Natural Forest))では、3.1項に先住民族はFPICに基づき森林管理権を誰かに譲らない限りは森林管理をコントロールするものとする、とあり、具体的には認証取得には土地法、森林条例、サラワク州政府官報、アダット(慣習法)等いくつかの法律や規定に準拠し、また先住民族とのコンサルティングの記録等の書類を揃えたりしなければならないとしています。

しかし、これで住民の先住慣習権(Native Customary Rights:NCR)が守れるかには疑問が残ります。準拠すべきとされるアダットは州政府が編纂したものは州政府に都合良い解釈になっていますし、また例えば森林管理の主体が村長と密談してコンサルテーションしたことにすることもあり得るからです。

 森林認証制度は、第三者機関が環境・経済・社会の3つの側面から一定の基準をもとに適切な森林経営が行われている森林または経営組織などを認証し、その森林から生産され木材・木材製品にラベルを付けて流通させるしくみです。消費者が、持続可能性に配慮した木材を選択し購買することを通じて、持続可能な森林経営を支援する民間主体の取り組みです。